再発・難治性DLBCL
ガイドライン改訂のポイント
CAR-T細胞療法が再発・難治性DLBCLの治療として推奨されました
「造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版」改訂のポイント
島田 和之 先生(名古屋大学医学部附属病院 血液内科)
「造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版」より、CAR-T細胞療法は、再発・難治性DLBCLの治療として推奨されました。(推奨グレード カテゴリー1)
・大量化学療法適応あり・なしにかかわらず、CAR-T細胞療法が標準治療として位置付けられました。
・CAR-T細胞療法が標準治療として位置付けられたことで、再発・難治性DLBCL症例に対しての治療選択肢が広がりました。
・CAR-T細胞療法を視野に、より早期に治療施設に紹介することが適切な治療につながると考えます。
CAR-T細胞療法を提供する際には、各製剤の最適使用推進ガイドライン等をご参照ください。
再発・難治性DLBCLの治療アルゴリズム
CQ9
再発・難治性DLBCLに対して、CAR-T細胞療法は推奨される治療の一つとして言及されました
CQ9 再発・難治性DLBCLに対してCAR-T細胞療法は勧められるか
一次治療でCRが得られないあるいは12ヵ月以内に再発した再発・難治性DLBCLに対して、CAR-T細胞療法は推奨される治療の一つである。ただし、その適応については適切に判断されることが推奨される。
日本血液学会編, 造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版, 金原出版, 2023, p. 301
再発・難治性DLBCLでは、CAR-T細胞療法が治療選択肢の一つとして推奨されました
- わが国において、悪性リンパ腫診療に応用されている3つのCAR-T製剤[チサゲンレクルユーセル(Tisa-Cel)、アキシカブタゲン シロルユーセル(Axi-Cel)、リソカブタゲン マラルユーセル(Liso-Cel)]は、いずれもCD19抗原を標的としたCAR-T製剤であり、3剤における有効性の差異は明らかではない1) 。
- 再発・難治性DLBCLに対して行われたTisa-Cel、Axi-Cel、Liso-Celそれぞれの第Ⅱ相試験(JULIET試験、ZUMA-1試験、TRANSCEND NHL 001試験)では、CR割合は40~54%と報告された2-4)。また、実際の診療において臨床試験参加者より前治療歴が多い患者や臨床試験の適格規準に合致しない患者においても一定の奏効割合が示されている5,6)。
- CAR-T細胞療法には、サイトカイン放出症候群や神経毒性などの特徴的な有害事象があり、時に集中治療を必要とするなど慎重な安全性管理が必要とされるが7)、治療により健康関連QOLを改善することも示されている8)。
- CAR-T細胞療法は再発・難治性DLBCLに対して有効な治療であり、一次治療でCRが得られないあるいは12ヵ月以内に再発した再発・難治性DLBCLに対しては推奨される治療の一つである。また、HDC/AHSCT後に再発した患者もしくは救援化学療法で奏効が得られない場合を含むHDC/AHSCTの適応がない再発・難治性DLBCLに対して考慮されるべき治療選択肢である。しかし、その適応については承認要件を含み適切に判断されることが推奨される。
解説:名古屋大学医学部附属病院 血液内科 島田 和之 先生
- 1)Maloney DG, et al.: J Hematol Oncol. 2021; 14(1): 140. (3iiiDiv)
- 2)Schuster SJ, et al.: N Engl J Med. 2019 ; 380(1) : 45-56. (3iiiDiv)
- 3)Neelapu SS, et al.: N Engl J Med. 2017 ; 377(26) : 2531-2544. (3iiiDiv)
- 4)Abramson JS, et al.: Lancet. 2020 ; 396(10254): 839-852. (3iiiDiv)
- 5)Sesques P, et al.: Am J Hematol. 2020 ; 95(11) : 1324-1333. (3iiiDiv)
- 6)Nastoupil LJ, et al.: J Clin Oncol. 2020 ; 38(27) : 3119-3128. (3iiiDiv)
- 7)Azoulay É, et al.: Lancet Haematol. 2021 ; 8(5) : e355-364. (3iii)
- 8)Patrick DL, et al. Blood Adv. 2021; 5(8): 2245-2255. (3iiiC)
日本血液学会編, 造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版, 金原出版, 2023, p. 301-302
CQ6
初回治療不応または初回治療による完全奏効後1年以内に再発した患者に対しての、CAR-T細胞療法での治療について言及されました
CQ6 再発・難治性DLBCLに対して自家造血幹細胞移植併用大量化学療法は勧められるか
救援療法により奏効(CR+PR)が得られ、年齢を含めた検討で適応があると判断される場合には、自家造血幹細胞移植併用大量化学療法を実施することが勧められる。
初回治療不応または初回治療による完全奏効後1年以内に再発した患者に対しては、アキシカブタゲン シロルユーセルまたはリソカブタゲン マラルユーセルにより、自家造血幹細胞移植併用大量化学療法よりも予後の改善が期待できる。
日本血液学会編, 造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版, 金原出版, 2023, p. 296
再発・難治性DLBCLでは、自家造血幹細胞移植併用大量化学療法の実施が勧められますが、CAR-T細胞療法の適応も拡大しつつあります
- 再発・難治性DLBCLに対して通常の救援療法単独での長期予後は不良であり、救援療法に続く地固め療法としてのHDC/AHSCTによる予後の改善が試みられてきた。
- 2021年に、初回治療不応または初回治療によるCR後1年以内に再発した患者に対する、HDC/ASCTとCAR-T細胞療法を比較した臨床試験の結果が3つ報告された。アキシカブタゲン シロルユーセル(Axi-Cel)およびリソカブタゲン マラルユーセル(Liso-Cel)はHDC/ASCT群をEFSで有意に上回っていた1,2)のに対して、チサゲンレクルユーセル(Tisa-Cel)は優位性は示されなかった3)。3つの試験には橋渡し治療の有無、リンパ球採取からCAR-T製剤輸注までの期間に差異があり、直接の比較は困難であるが、この試験の対象となるような初回治療不応または初回治療によるCR後1年以内に再発した患者に対しては、Axi-CelまたはLiso-Celにより予後の改善が期待できる可能性がある。
- 初回治療不応または初回治療によるCR後1年以内に再発した患者に対してはAxi-CelまたはLiso-Celが、HDC/AHSCTの対象となる再発・難治性DLBCLに対しては、救援療法に奏効(CR+PR)が認められる場合にはHDC/AHSCTを実施することが勧められるが、再発・難治性DLBCLに対するCAR-T療法の有効性については知見の集積が進んでおり、適応が拡大しつつあることに留意する。
解説:名古屋大学医学部附属病院 血液内科 島田 和之 先生
- 1)Locke FL, et al.: N Engl J Med. 2022 ; 386(7) : 640-654. (1iiDi)
- 2)Kamdar M, et al.: Lancet. 2022 ; 399(10343) : 2294-2308. (1iiDi)
- 3)Bishop MR, et al.: N Engl J Med. 2022; 386(7): 629-639. (1iiDi)
日本血液学会編, 造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版, 金原出版, 2023, p. 296
CQ7
再発・難治性DLBCLに対しての、同種造血幹細胞移植について大きな変更はありませんでした
CQ7 再発・難治性DLBCLに対して同種造血幹細胞移植は勧められるか
難治例、自家造血幹細胞移植併用大量化学療法後の再発例に対して、同種造血幹細胞移植は考慮されるべき治療選択の一つとして勧められる。
日本血液学会編, 造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版, 金原出版, 2023, p. 298
再発・難治性DLBCLでは、同種造血幹細胞移植も治療選択肢の一つです
- 再発・難治性DLBCLに対しては、同種造血幹細胞移植(以下、同種移植)はHDC/AHSCTと比べて治療関連死亡が多く、OSでの優位性もないため1)、まずはHDC/AHSCTの適応が考慮される。HDC/AHSCT後の再発・難治例は極めて予後不良であり2)、何らかの臨床試験による治療法が推奨されるが、その選択肢の一つとして同種移植が挙げられる。
- The Center for International Blood and Marrow Transplant Researchとthe European Society for Blood and Marrow Transplantationのレジストリデータを用いた大規模な後方視的検討では、ハプロ移植、血縁HLA適合ドナーおよび非血縁HLA適合ドナーからの骨髄非破壊的同種移植でそれぞれ、3年の非再発治療関連死亡が22%、17%、26~30%と差がなく、3年OSが46%、50%、43~46%と同等であったと報告されている3)。
- 本邦における再発・難治性DLBCLを対象とした同種移植に関する多施設による後方視的検討では、4年OSが23%、RFSが20%、累積の非再発治療関連死亡が23%、累積再発割合が57%であったと報告されている4)。なかでも移植時に奏効が得られていた患者では、4年OSが46%、RFSが36%であったとされている。これらの結果からは、同種移植により長期生存が得られる患者群が存在することが示されている。
解説:名古屋大学医学部附属病院 血液内科 島田 和之 先生
- 1)Wang J, et al.: Cell Transplant. 2020 ; 29 : 963689720975397. (1iA)
- 2)Crump M, et al.: Blood 2017 ; 130(16) : 1800-1808. (3iiiA)
- 3)Dreger P, et al.: Blood Adv. 2019 ; 3(3) : 360-369. (3iiiA)
- 4)Izumi K, et al.: Ann Hematol. 2019 ; 98(12) : 2815-2823. (3iiiA)
日本血液学会編, 造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版, 金原出版, 2023, p. 298